幅広く、かつ重厚な著作活動を支えたのは、「知の集積」とも言える膨大な取材資料だった。なぜ、寄託や公開の動きが滞っているのか。資料の寄託はもともと、立花さんの幼なじみで元NHK専務理事の板谷駿一さん(82)が仲介し、立花さんの秘書を務めていた妹菊入直代さん(78)が広沢会長から賛同を得て実現した。7月下旬ごろまで、相続人に当たる立花さんの3人の子も承諾していたというが、「法的リスクや経済的・人的負担が大きい」と難色を示したのが相続代理人の安福謙二弁護士(75)だ。
最大の懸念は、未公開の取材資料に含まれている可能性がある「秘匿情報」だという。「特に著作の初期から中期にかけ、匿名を条件に取材している情報が非常に多い。資料が人の目に触れ、立花さんがジャーナリストの矜持きょうじとして守ろうとした約束が破られれば、トラブルに発展する可能性がある。秘密保持に関する問題がないと言い切れるのは彼本人だけだ。相続人や寄託先にリスクを負わせるわけにはいかない」と主張する。
また、長期の維持管理やデータベース化、一般公開の是非のチェックなどに、多大な費用と人手を要する点も案じている。この安福弁護士、当人が言うには、20代のころ、「日本共産党の研究」のインタビューと資料収集を担ったデータマンの一員だった。自身が仕事に携わったからこそ、取材ノートの貴重さ、背中合わせの危うさを重く捉えているという。
現在、資料の大半はNHKのドキュメンタリー番組制作のために貸し出され、関係者の多くはまだ中身に目を通していない。安福弁護士は「資料の精査が最優先だ。それまでは何も進められない」と述べる。